はなとりどり

平成28年3月、当館が所蔵する「蓮図」(能阿弥筆、室町時代)が新たに重要文化財に指定されました。15世紀中ごろの足利将軍家に仕え、同朋衆(どうぼうしゅう)として多分野で才能を発揮した能阿弥(1397〜1471)が、最晩年である文明元年(1471)に制作した逸品です。蕾がほころび始めた蓮の花が柔らかな水墨で描かれており、画面に添えられた辞世の歌からは能阿弥が迎えた最期の時の静謐な空気が感じられます。 この新指定を記念しまして平成28年度の秋季展は「はなとりどり―中世の花鳥名品撰―」と題し、重要文化財「蓮図」を始めとする中世に制作された作品を中心に、麗しい花鳥の世界を構成いたします。浄土を象徴し仏教と深く結びつく蓮だけでなく、蘭や梅などの花、鶴や鴛鴦、鷺といった鳥は、優美なかたちに吉祥性も伴ないながら盛んに作品に取り上げられてきました。本展ではこれらの作品に併せて、花鳥の意匠が施された中国工芸品の数々もご紹介いたします。 さわやかな秋の一日、正木コレクションの花鳥にいろどられた名品をぜひお楽しみください。

明けぬ暮ぬ ねがうはちすの花のみを
―明けても暮れても願うのは蓮の花のことだけだ―

能阿弥が最晩年に制作した作品。ようやく蕾がほころび始めた頃の蓮花を描いています。淡墨による没骨法(筆線でくくる輪郭線を用いずに、水墨や彩色の濃淡で対象を描き表わす技法)で描かれ、柔らかな筆致で豊かに質感が表現されています。
画中の和歌は能阿弥のいわば辞世の句ともいえるものでもあります。蓮の花に極楽浄土の世界を重ね、間もなく訪れる最期の時を待っている能阿弥の清浄な心境が伝わってくるかのようです。 水墨画に漢詩文ではなく和歌による賛が付されている点がたいへん珍しく、数少ない能阿弥の画と書の基準作である点においてもたいへん貴重な逸品です。


重要文化財「蓮図」 能阿弥筆 一幅 紙本墨画 室町時代 通期展示

翻(ひるがえ)る曲線美、馥郁(ふくいく)たる芳香

リズミカルな墨線が画面内に翻っています。描かれている「蘭」と「宦vはどちらも良い香りをはなつ花として知られており、高潔さを象徴します。「蘭宸フ交わり」という言葉があるように、優れた人徳や賢人君子の喩えにもしばしば引き出されてきました。伸びやかな曲線美による蘭寳}を得意とした臨済宗の僧、





一碗に展開される浜の景色

堅手茶碗は朝鮮でつくられる高麗茶碗の一種で、淡紅色の地肌に斑文が生じたり、青味のある釉流れが見られるのが特徴です。 江戸時代の茶人小堀遠州は本作に「浜千鳥」という銘を付しています。青味がかった釉からは浜辺の風景を、斑文からは飛び交う千鳥の群を連想したのでしょう。付された「浜千鳥」の銘によって茶器に展開される世界はより一層色鮮やかなものとなり、雅趣あふれる景色を見せてくれます。


「堅手茶碗 銘浜千鳥」 一口 朝鮮時代 通期展示

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