雪月花

鎌倉時代から室町時代にかけて制作された日本絵画の特徴は、舶載された中国絵画の技法や画題などから多大な影響を受けた作品が多いことです。「漢画」と呼ばれるこれらの作品が、宋時代から元時代の禅宗の僧たちによって様式を確立したことは、日本美術史上において特筆すべきことでしょう。
南北朝時代には、重要文化財「騎獅文殊図」を手掛けた画僧良全が、新たに請来された中国仏画や水墨の手法を取り入れながら活躍しました。その後、室町時代には五山禅林の画僧たちによって「漢画」の様式は一層高められていきます。
本展覧会では、当館が所蔵する重要文化財「騎獅文殊図」(良全筆、南北朝時代)をはじめ、「白衣観音図」(古源邵元賛、南北朝時代)や「群仙図屏風」(喚舟筆、室町時代)など、14世紀から16世紀にかけて制作された作品を中心に展示いたします。中国絵画の影響のもとで形成され、連綿と伝えられてきたヒトの姿と形に見る仏や禅僧、仙人のイメージを、正木美術館の名品をたどりながらご鑑賞いただければ幸いです。

「知恵」の仏様、文殊菩薩

普賢菩薩(ふげんぼさつ)とともに釈迦如来の脇侍(きょうじ)をつとめる文殊菩薩(もんじゅぼさつ)。現在も「知恵」を象徴する仏として広く信仰されています。獅子の上に乗り宝剣と経巻を持つ姿がよく知られ、ここでは童子の姿で描かれています。本展出品の二つの文殊菩薩図は獅子の描かれ方が異なり、それぞれの獅子の個性の違いを強く感じさせる興味深い作品です。

(左)重要文化財「騎獅文殊図」良全筆 乾峯士曇賛 南北朝時代 後期展示
(右)重要文化財「騎獅文殊図」虎関師錬賛 南北朝時代 前期展示

福々しい布袋さん、逸話満載の達磨さん

日本で七福神として知られる布袋は、大きな腹と布の袋を持つ特徴的な姿が一般的によく描かれます。中国の実在の僧であると伝えられ、禅林では特に敬愛されてきました。 禅宗の初祖である達磨には多くの逸話が残されており、様々な図様の作品が伝わっています。本展でも「蘆葉達磨」や「朱衣達磨」といった達磨の姿をご紹介いたします。



(左)「布袋図」乾峯士曇賛 南北朝時代 前期展示
(右)「達磨図」中巌円月賛 南北朝時代 後期展示

仙人たちは理想の世界に集う

中国に伝わる神仙思想は、日本の文学や思想に大きな影響を与えてきました。世俗から離れ理想郷に集う仙人たちに、人々は畏敬と憧憬の思いを抱き、中世の禅林においても作品にたびたび取り上げられています。本作には右隻と左隻に四人ずつ仙人が配置され、鉄拐や呂洞賓(りょどうひん)、神農(しんのう)など、よく知られた仙人が描かれています。


「群仙図屏風」喚舟筆 室町時代 (右隻) 前期展示

併設展 滴凍翁の茶道

正木美術館の創設者である正木孝之は、禅僧一休宗純の人となりを愛し、所有する一休の墨蹟にちなんで「滴凍」と号しました。「古萩茶碗 銘普賢」(江戸時代)や「唐三彩香合」(唐時代)、「珠光象牙茶杓」(村田珠光作、室町時代)など、滴凍翁の収集による茶道具コレクションの名品をご紹介いたします。


ページトップに戻るページトップに戻る