水墨によって描かれる山水画は、8 世紀ごろの中国で花鳥画と共に盛んに制作され始めました。日本では中世に入ると、日中間を行き来していた禅僧たちによってこれらの作品が大量にもたらされ、新たな主題や画法を学びながら日本の水墨画の土壌が形成されていきます。中国の地に憧れを抱きながら、胸中に想う理想の自然景を描く作品はこうして多く制作されました。時を同じくして伝来した「瀟湘八景」の画題は、水墨画のみならず、日本の絵画における主要な画題の一つとして定着することになります。
当館の平成29 年度の春季展は、この水墨画の中でも重要な位置を占める山水画を中心に、風光をテーマとして開催いたします。風光という言葉は、「景色、風景」という広く知られている意味の他に、禅語では「誰もが持っている仏性、真の姿」という意味も示します。本来のあるべき姿を見出すために制作された仏像や仏具、姿かたちの美しい茶道具も同時にご覧ください。
風光る若草の季節、正木コレクションの名品をご堪能いただければ幸いです。