当館を特色づけるコレクションとして、中世の禅林社会で制作された水墨画や墨蹟の名品の数々は代表的なものですが、加えて朱漆器を中心とする漆芸品も当館の重要なコレクションの一つです。
漆を用いた器は古くから人々の生活の中で使用されてきました。奈良時代に中国から装飾的な漆器が伝わったことをきっかけに日本でも蒔絵などの漆工技術がさかんに用いられるようになり、独自の発展と研鑽を積みながら、高い技術に裏打ちされた多くの優品が生み出されてきました。茶道具にも漆工技術の粋を凝らした作品が多く見られます。
また祭祀の場で使われていた朱色の漆は、高貴さや富を象徴する色として、場を彩り祝祭性を高める役割を担いながら一般の生活においても広く用いられるようになりました。中でも根来塗と呼ばれる漆器は特によく知られています。根来寺の山内で発祥し、中世を代表する実用性の高い什器として制作されました。根来塗は黒漆の上から朱漆を塗り重ねて仕上げられますが、経年によって朱色の下から黒色が露出する独特の塗肌の美は、現代においても国内外で高く称賛されています。
本展では、室町禅林文化を代表する水墨画・墨蹟と、根来塗と呼ばれる朱漆器を中心にご紹介します。墨と漆芸の美をテーマに、蒔絵や螺鈿、彫漆など多岐にわたる技法の漆芸作品も併せて展示します。
墨色と朱色の洗練された造形や色調の美しさをどうぞお楽しみください。