六世紀初頭に達磨大師によってインドから中国に伝えられた禅宗は、九世紀の唐時代末には中国禅として確立し、日本には十三世紀の鎌倉時代に本格的に導入されました。武家や皇族、公家を筆頭に広く支持されながら日本の社会と文化に大きな影響をもたらします。
達磨大師に始まる教えを脈々と受け嗣いできた禅宗では、弟子が師の法を正しく受け嗣いだ証として、師の肖像画である頂相や、師によって揮毫された墨蹟が与えられました。それらは禅僧にとって師に参禅した証であるとともに師の教えを象徴する崇敬の対象でもあり、代々尊ばれながら現在にまで大切に伝えられています。
本展覧会では、中国禅林や鎌倉五山・京都五山など各寺院の高僧が遺した作品に注目します。当館が所蔵する重要文化財「竺田悟心墨蹟(じくでんごしんぼくせき) 中巌円月送別(ちゅうがんえんげつそうべつ)の偈(げ)」をはじめ、中国南宋時代の臨済宗虎丘(くきゅう)派の高僧を描いた「破庵祖先頂相(ほあんそせんちんぞう)」や、天龍寺開山夢窓疎石(むそうそせき)を筆頭とした三代にわたる師と弟子の肖像「三僧図」(大岳周崇(だいがくしゅうすう)賛)、中国五代十国時代の閩(びん)の王が師に参禅する様を描いた「閩王参雪峰図(びんおうさんせっぽうず)」(楚石梵琦(そせきぼんき)賛)など、十四世紀から十六世紀にかけて制作された頂相・墨蹟・水墨画を中心にご紹介するものです。開館以来、禅林文化の宝庫と評されてきた正木コレクションを通じて、師から弟子へと法が受け嗣がれる世界をぜひご覧ください。