水墨によって表現される山水画は、8世紀ごろに中国で制作され始めました。中国では古くから霊山や名山にまつわる信仰が存在し、不老不死の神仙がくらす世界への憧れが神仙山水の思想を生みだします。こうした信仰や思想を背景に、理想とする自然の景色を形に表し、手元に置いておきたいという思いから制作されたのが山水画です。
当館の令和4年度春季展示は、コレクションの中から山水画の名品をご紹介します。今回の山水に遊ぶという展覧会タイトルは、南北朝時代の高士宗炳(そうへい)(375~443)の故事にある「臥遊(がゆう)(臥(ふ)して山水に遊ぶ)」という言葉に由来しています。宗炳は病床から壁に描いた山水を眺めて山水世界を愛でたといい、実際にその地を訪ねることができない者にとっての山水画の役割がうかがえます。
また、山水画を描いて自然の雛形を手元につくり出し、理想の風景をそこに見出すことは、禅宗の思想とも深く結びついています。重要文化財「春景山水図」(岳翁蔵丘筆)や「山荘図」(謙巌原冲他、八僧賛)からは、自然の中に静かに身を置いて暮らすことを理想としていた禅僧や、制作の注文主の想いが読み取れます。正木美術館が誇る禅林美術と、胸中の理想郷を描いた山水画の名品をどうぞおたのしみください。