道釈人物画という絵画のジャンルは、禅宗文化の中で生まれ成立しました。禅宗では、弟子が師の法を正しく受け嗣いだ証として、師の肖像画である頂相や、直筆の墨蹟が与えられます。道釈人物画はそうした頂相や墨蹟から発展し、師のまたその師、さらにまたその上の師へと系図を遡って祖師が描き続けられました。その代表的な例が、禅の始祖である達磨大師像です。このように発展してきた道釈人物画ですが、祖師に限らず理想の姿の象徴として、道教における仙人や、仏教における諸仏など、多くの尊像も取り上げられるようになりました。
本展覧会では、仏教と道教の垣根を超えた多彩な尊像を含む道釈人物画に着目します。 当館が所蔵する重要文化財 「六祖慧能図」 をはじめ、円爾弁円の肖像画「聖一国師頂相」や、臨済宗夢窓派の僧、春屋妙葩の墨蹟「消息」 、啓孫筆の「布袋図」など、室町時代を中心に制作された頂相、墨蹟、道釈人物画を中心にご紹介するものです。それぞれの作品に込められたエピソードとともに、禅の世界で理想の姿として尊ばれた道釈人物画をぜひご覧ください。