
泉州が生んだ稀代のコレクター、正木孝之(1895-1985)は、戦後一代で1300点にも及ぶ東洋古美術品を収集し、正木美術館を創設いたしました。
2015年は、孝之生誕120周年にあたります。それを記念し、正木美術館では2014年度より2年間「正木孝之コレクション特別展」を開催しています。本展覧会では、正木コレクションが誇る二つの白氏詩巻(国宝)を中心に、雪月花の美術を紹介します。
雪月花の時、最も君を憶う
平安三蹟の二人、小野道風と藤原行成が白居易の詩集「白氏文集」を揮毫したように、平安朝文学において彼の影響は非常に大きなものでした。「雪月花」という美意識も、彼が詠んだ「雪月花の時、最も君を憶う」という詩から広く人々に認識されるようになりました。当時、白居易は我が国において文学だけにとどまらず幅広い分野にわたって影響を及ぼしていたのです。
本展では二つの国宝白氏詩巻と正木コレクションをつなぐキーワードとして「雪月花」を設定し、それらが表現された水墨画、墨蹟、漆工品などを紹介します。
和様の書創始者小野道風 大成者藤原行成
唐様と呼ばれる中国の書法に対して、我が国では平安時代の中程に和様の書が生まれます。それは平安三蹟と讃えられる、小野道風(894〜966)、藤原佐理(944〜998)、藤原行成(972〜1027)によって完成されます。三蹟のうち、小野道風、藤原行成の二人が白居易の詩を揮毫した白氏詩巻が正木美術館には伝わります。本展覧会ではこの二つの国宝白氏詩巻を一挙に公開いたします。

幻の楷書
小野道風 三体白氏詩巻
白居易の詩集「白氏文集」の中から6首を選び揮毫したもの。三体というのは、楷書、行書、草書、三つの書体で揮毫したためにこの名がつきました。彼の遺品の中で唯一の楷書を伝える作品です。それぞれの書体にみられる柔らかなタッチの線質は、和様の創始者としての道風の遺風をよく伝えます。

藤原行成
後嵯峨院本白氏詩巻
和様の大成者、藤原行成が揮毫した白氏詩巻です。本巻の跋文によってかつて後嵯峨院(1220〜1272)に伝わっていたことから後嵯峨院本白氏詩巻と呼ばれます。行成は「夢の中で道風に相、書法を授けられた」と自らの日記(『権記』長保5年11月25日条)に記すほどに道風に私淑していました。その書風は道風に比べると痩身で均整が美しく、より進歩していることが伺えます。

主な作品

雪
[1] 了庵桂梧墨蹟 七絶 室町時代 [2] 雪景山水図 龍登筆 室町時代
月
[3] 雨月山水図 和玉楊月筆 室町時代 [4] 春日鹿曼荼羅 室町時代
花
[5] 梨に白鶺鴒図 興悦筆 室町時代 [6] 墨梅図 王冕筆 元時代