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千利休生前の姿を描く唯一の肖像。画面には大きな体躯の男が、上げ畳に静かに着座する。「茶聖」と呼ばれた利休のイメージとはかけ離れた、堂々とした体躯と強い眼差しが、茶道を大成した気骨稜々たる人物であることを示す。その上部には参禅の師、古渓宗陳による賛があり、この肖像が天正11年(1583)に描かれたことがわかる。その年利休は62歳、天下人になった秀吉の茶頭を務めるなど、絶頂期にあった。
筆者については長谷川等伯と伝わる。この利休生前の肖像が、はからずも茶人「滴凍」のもとに収まった。天下人である秀吉をはじめ、数多の武将とわたりあった当時の強烈な存在感を写した本作との邂逅で、孝之は自らの茶道を邁進することを心に決めたのではなかろうか。