上畳に座る盲目の女性、側には鼓が置かれる。画面中程の円相には一休の肖像画が描かれる。この盲目の女性の名は森という、一休が愛した盲女である。本作はその森を描く唯一のもの。二人は文明二年(1470)住吉薬師堂で出会った。一休七十七歳、おいらくの恋であった。
一休は詩集「狂雲集」の中で森との情交を詩にした。この情交が事実かどうかは判然としない。しかしその詩は他の禅僧による艶詩と比べ
奔放で具体的な表現をみせる。
一休没後、弟子たちは毎年かかさず彼の法要を行っており、永正七年(1510)に真珠庵で行われた際の出銭帳が遺っている。その「比丘尼衆」に、「百文 森侍者慈柏」と記される。
一休の詩に表されたことが事実かどうかはさておき、森はたしかに存在していたのである。最初の出会いから40年過ぎてなお、彼女は一休を慕っていた。
